男にだって、秘めていたい隠し事の一つや二つ…あると思います。
男の隠し事は、主に
頭皮に秘められる。
(やばい…生え際が後退してる…)
そう思えば、やはり男は前髪を伸ばしてそれを隠そうとするし、バーコード
ハゲだって必死にゲーハーを
hide(ヒデ)した結果だ。
僕の高校の先生に、N橋先生という人がいた。
この人の頭髪は、明らかな違和感を周囲に主張しており、まだ確証も得られていないのに、彼のあだ名は時を待たずして
「ヅラ」
になった。
ほんと…時として子供達の純粋さっていうのは、漢(おとこ)の心に深く突き刺さる。
彼が本当にヅラか、そうでないかは関係無い。
過日の僕達は、面白そうなものにはなりふり構わず飛び付いてたのだ。
そう…例え人が深く傷付くことになっても。
ある日、彼の授業中のことだった。
彼の授業と言えば、それはもう退屈で、あの独特の声にはある種の電波のようなものが含まれているのでは無いかと疑われたほどだ。
いつものように、明るく賑やかなクラス。
五分に一回
「ウルセェよ」
と、中途半端な大きさの
ヴォイスでセイする彼は、どちらかと言えば嫌われているほうの部類に属する先生だったと思う。
N橋先生の
「ウルセェよ」
で、
教室が静かになったことは一度も無い。
だがこの日、彼の授業には始めて沈黙が訪れることになる…。それも今はまだ、だれも知らない。
「やっぱりさ、あいつの頭はヅラだって。」
「さもあらん。」
いつものようにそんなことを話していた僕らだったが、一人がこんなことを言い出した。
「今日は語尾にヅラを付けて話そうぜ。」
「それ熱いな!」
何が熱いのかよくわからないが、当時高校一年生だった僕らは、まだ何か幼い部分を引きずっていたのかもしれない。
もちろん、それは二十歳になった今でも変わらないのだが…。
そんな幼い好奇心は、それを遮るものを知らず、ただ盲目に肥大化していく…
「やっぱ禿げても
かつらはいやヅラ。」
「そうヅラなぁ〜」
全くもって意味とかも不明なんだけど、僕らはこのような会話をしたあと、しきりにバカっぽい笑いを繰り出していた。
「〜ヅラ」
「〜ヅラよねー。」
授業なんか聞かない。ノートも取らない。
それが僕らの美学だったし、反省したこともない。
いや、浪人してから反省しました。
さて、このような会話をひとしきり繰り広げた時、満を辞して根橋ティーチャー(←!)が口を開いた。(まぁ、それまでも授業という形で、口を開いてはいたんだけど…。)
「すこし…雑談をしてもいいですか。」
彼の顔が陰る…。
陰るっていうかもはや暗闇。
異様な雰囲気にクラスの会話のトーンが一つ下がる。
(こ、こは如何に?)
ズラ語を話していた僕らも、彼の異様な雰囲気のトークに耳を傾ける…。
「私は若い頃…
病気をしましてね…。」
この言葉から先、クラスの中で一言として言葉を発する者は無かった。
「酷い頭になってしまったもので…。その時
カツラを付けることに決めたんですよ…。」
遂に暴かれた根橋ティーチャーの
毛髪の違和感の秘密。
しかし、真実はあまりにも悲惨で、突如としてそれを突き付けられた少年達は、ただただ自分の罪を悔やむことしか出来なかったのである。
ホンマ…カツラにだけは突っ込んだらあかんわ。
そこに待つのは悲劇のみだから…。
それではまた